学研よみものウェブ ほんちゅ!

ホームウェブ連載コラム峰なゆか(漫画家・文筆家)×道尾秀介(作家)対談 「Jam Session」第2回 >私、いまだになんで道尾さんが『アラサーちゃん』がこんなに好きなのか把握できてないんですよね。(峰)

河瀨直美(映画作家))×道尾秀介(作家)対談  「Jam Session」

道尾さんが、イベントの最前列の席を取るため列に並ぶほどのファンでもある漫画家・峰なゆかさんが「Jam Session」第5回目のゲストです。今回のテーマ本『鏡の花』の話から、峰さんの『アラサーちゃん』へ、そして二人のキャラクター論、創作論が語られる濃厚な対談を、3回にわたってお送りします。

普段の人間関係の中の立ち入らないようなところとか、そういうものが克明に出ている感じを『月と蟹』からは受けました(河瀨)

更新日:2014/09/03

道尾:『そろそろマンガの話、していいですか? 『アラサーちゃん』の話。

:はい。どうぞ。

道尾:僕は本当に『アラサーちゃん』のファンなんですよ。マンガを読む機会は滅多にないんですけど、たまたま「SPA!」に載っていた連載を読んだら、ものすごくおもしろかったんです。「こんなマンガがあったのか」と感激して、それで単行本も買いました。その一年間で唯一買ったマンガなんですよ。

:道尾さんとはよくお会いして、私の『アラサーちゃん』がらみのイベントなんかにも来てくださるんですよ。

――道尾さんは、あまりマンガを読んでいるイメージがないです。

道尾:べつに苦手とか嫌いなわけではないのですが、何故かあまり読まないですね。本棚にも数えられるくらいしかないんですよ。古谷実さんの『ヒミズ』『シガテラ』とか。それ以外に好きなマンガ家さんは誰かと聞かれると、上村一夫さんあたりになっちゃう。

:漫画っていっても文学っぽいですよね。私、いまだになんで道尾さんが『アラサーちゃん』がこんなに好きなのか把握できてないんですよね。すごい愛は感じるんですよ。「アラサーちゃんがオラオラくんとやるのはいいけど、大衆くんとやるのは許せない!」って、マジで言われたことがあります(笑)。

道尾:そうなんですよ。僕は連載の途中から読み始めたんで、二人の間に肉体関係があるとは思ってなかったんですよ。普通にそのシーンが出てきた時にはショックでした。アラサーちゃんには、もっと高嶺の花であってほしかったです。大衆なんかに安売りしないでほしかった(笑)。

:でも、割といい女でも、しょうもない男とできちゃう時はあるじゃないですか。

道尾:まあ、それが現実なんでしょうね。でも僕はショックだったんですよ。ドアを開けたら憧れの子が、なんかその辺の男とやってたみたいな(笑)。でも、すごいなと思うのは、そのショックを受けたのがたった1コマなんですよね。そんなの小説ではなかなかできないですよ。1行で読者にショックを与えるためには、その前後に何百行という文章が必要なんです。それが1コマでできちゃうんだからなあ。今にして思えば、あれこそキャラクター作りの技術なんだと思います。

:あと、アラサーちゃんってそんなに高嶺の花じゃなくて、よくいる「普通にモテる女子」みたいな感じのつもりなんですよ。

道尾:そうなんですよね、考えてみれば。あ、ところで『アラサーちゃん』って、目が黒目か白目かどっちかじゃないですか(注:瞳とそれ以外ではなくて、常に黒ベタか白抜きかどちらかで表現されている)。あれは、どういうわけなんでしたっけ?

:キャラクターデザインの初めからそうでした。もともと私はけっこう普通の少女マンガ絵を描いていたんですけど、これを生業にするにあたっては、とにかくページを早く描かなくちゃいけないと思ったんですよ。それで眉毛とか目の光とかの作画作業をどんどんカットしていったんです。

道尾:ああ。(ごそごそと『アラサーちゃん』のコピーを取り出す)

:……なんでコピーしてきたんですか?(笑)

道尾:例に出したい話をコピーしてきたんです。あの、マーフィーの法則って知ってます? 失敗学というのかな。例えば「洗車をすると雨が降る」とか。

:ああ、ありますね。

道尾:『カササギたちの四季』という本の主人公の華沙々木君を『マーフィーの法則』が愛読書という設定にしたんですけど、それを書いているときに資料として『マーフィーの法則』をずっと読んでいたんですね。峰さんの目の話で思い出したのが、「どうしても欠陥を改善できなければ、それを商品の特長にしてしまえ」という法則。いろんなところで行なわれていると思うんですけど、峰さんの目玉もまさにそうですよね。その特徴が見事に長所に変わっていて、いい個性になってますよね。

:でも、作画の面では全部黒目だと困ることもあるんですよ。「顔が正面で右を向いている人」とかを描く時なんかがそうです。普通は黒目だけ寄せればいいじゃないですか? でも、それが描けないのでちょっと困るんですよ。なんとなくまつげの角度とかでやってるんですけど。そういうのがちょっと辛いけれど、いちいち全部のコマで目の光描くのも面倒くせーからなと思って。

道尾:いいですね。それが成功するというのが最高です。『アラサーちゃん』の目も、最初にこのマンガが大好きになった理由でもあるんですよ。最初はその効果に気付いてなかったんですね。でも何かの話を読んだ時に、コマで「黒目→黒目→黒目→白目」と来た時に、それがすごく効果的だったんです。その時にハッとなって、これまでのページを見直したら、キャラクターに黒目と白目しかないというのが判ったんです。感情がダイレクトに伝わってくる。『アラサーちゃん』って、難しい感情はむしろ必要としないマンガで、たくさんの人が共感できるからこそ成り立っている。このないだの『SPA!』の対談でもお話したんですけど、共感できない人は「『アラサーちゃん』って怖いマンガだ」というイメージを持ってしまったりするらしいですよね。

:それはたぶん見透かされ系の怖さですね。

道尾:男の人が、「これは怖いマンガだ」と思うらしいです。

:まあ、単純にいうと「女って怖い」という。

道尾:うん、僕も、たとえば学生の時に読んでいたら怖いと思ってたんじゃないかな。そこまで女性のことをよく知らなかったですし、いきなり舞台裏を見せられた感じがしたかもしれません。今はもう漠然と「裏ではこんなことになってるんだろうな」と想像もつく年齢なので、思いっきり楽しめるんですね。「そうそう、あるある」って感じで。

:私は単純に「コーヒーが苦くてまずい」っていってた人が「コーヒーうまい」ってなるみたいな感じかなと思ってるんですけど。

道尾:楽しめるか楽しめないかって、要するに「想像していたものと味わってしまったものとの落差」なんですよね。あんまりそこに落差があると楽しめるところまで気持ちを持っていけない。「うわあ、怖い」で終わってしまう。でも「コーヒーは苦い」と判っていてその苦味を楽しみたくて飲むと「そうそう。この苦さ」ってなるんですよね。

作品紹介

峰なゆか×道尾秀介(作家)のプロフィール オフィシャルウェブサイトはこちら 峰なゆか 公式Twitter 道尾秀介 公式Twitter


  • よくあるご質問
  • 学研70周年
  • 学研ゼミ
  • 脳と創造
  • 幸福への近道
  • マララ
  • ムープラス
  • がっけんのえほんやさん
  • フィッテ
  • 学研BookBeyond 電子書籍ストア
  • 新版 生きるヒント
  • 図解 はじめての株訂正箇所一次投票受付中

学研よみものウェブ ほんちゅ!

PAGE TOP