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大塚卓嗣(作家)×谷津矢車(作家)特別対談

第18回歴史群像大賞において、「優秀賞」「佳作」に入選して今年デビューを果たした谷津矢車さん(27)と大塚卓嗣さん(39)。デビュー作『洛中洛外画狂伝』、『天を裂く』が共に三刷と、普段歴史小説に馴染みのない若い読者にも支持されているようです。「萌え」や「ツンデレ」から「アメコミ」にゲームの「フレーム」と、歴史小説には珍しいキーワードが随所に登場する対談になりました。

――なぜ歴史小説を書こうと思われたのですか?

大塚:もともと歴史が好きなこともありますが、人間が大暴れする様を書きたいと思っていました。そうすると、現代小説よりも歴史小説のほうが、自由度が高いと思いまして。

谷津:僕は学生時代、歴史学科考古学専攻で古墳時代を研究していました。本居宣長などが有名な古墳研究史ですが、古墳時代は小説にしにくい(笑)。卒論のテーマが天皇陵を研究した「蒲生君平」で、調べれば調べるほど面白い人物でした。ちょうど歴史群像大賞に応募するテーマが見つからなかったこともあり、えーい彼を書いちゃえと。歴史小説は中学生の頃から書いていました。

大塚:私もちょうど漫画の原作として神話の世界を調べていた流れから、5世紀前半のヨーロッパ世界を書きたくなり、ローマの武将「アエティウス」で応募しました。漫画のほうは、結局仕事にはなりませんでしたが(笑)。

――応募作はおふたりとも小説を書こうとして調べた人物ではなかったわけですが、今回のテーマはどのように選ばれましたか?

谷津:自分の武器は何だろうかと考えたとき、若さくらいしか思いつきませんでした。歴史小説はベテランの先生が凄い作品を書かれているけど、若い男子に向けた歴史小説ってあまりないのでは?と思い、今回、源四郎(狩野永徳)を完全に草食系男子として書きました。僕の武器だと思う現代男子の感覚を大切にして、草食系男子に共感される主人公を歴史小説で書けたら新しいのではないかというのが、出発点でした。

なにせ『信長の野望』や『三国志』でなく『るろうに剣心』から時代小説に入った世代なので、ヒーローだけど弱さもしっかり描かれている草食系男子的な面を持ち合わせた緋村抜刀斎のような主人公を、歴史小説の世界に応用できないかとも考えていました。

大塚:私は戦国時代でという編集部の意向があったので、ならば水野勝成だと。戦国といえば水野勝成でしょうと。

谷津:マイナーですよね。普通筆頭に上がってくる武将ですか?

大塚:自分だけが知っている武将という感じです。刈谷藩主で初代福山藩主のとんでもない人物なのに、あまりにも知られていなさすぎるので、これは何とかせねばと勝手に思ってました(笑)。むかし徳川家康を調べていて、徳川四天王から徳川八神将と広がり、二十六神将の経歴を読むと一人だけとんでもない奴がいる。そこで水野勝成を知るのですが、一万の敵軍に一人で突っ込むって……。

谷津:アメコミのヒーローみたいですよね。

大塚:すごい肉食系男子ですね、と云われました。そのときは、逆に歴史小説で草食系っているのかなあと思いましたが、ここにいましたね(笑)。

――主人公のキャラクターはかなり違いますが、創作方法はどうでしょう?

谷津:僕はまず物語の終わり少し前の絵(イメージ)が浮かんで、そこに向かって書いていく感じです。編集さんにも秘密の隠し玉を用意したりして。ただ、今回はテーマである絵「洛中洛外図」をどうやって文章に落とし込むかに、けっこう悩みました。

大塚:私の場合はシーンを設定すると、まずセリフが先に浮かびます。漫画でいう字コンテを切る感覚でしょうか。それから、間を繋いでいきます。

谷津:新しいなあ。いきなり戦いの後の戦場で佇んでいるシーンから入るところがあって、とっても視覚的でした。

大塚:ありがとうございます。対決シーンを書かずに面白く決着がつくのを見せられれば理想形だと考えたことがあります。でも実際は敵をなぎ倒す戦闘シーンを書くのは好きです(笑)。反面、主人公に政治をさせるのに苦労しました。なので、文化と政治でエンターテインメントとして書かれている『洛中洛外画狂伝』は凄いと思いました。自分には出来ないなあと。

谷津:逆に僕は草食系で腕っ節も弱いので、戦場や戦国武将の荒々しさを書く自信がないです(笑)。

――大塚さんが好きなアメコミの影響は作中にありますか?

大塚:構成にはあると思います。一定の期間内にしっかりイベントが発生するというような部分ですが。

谷津:リズム感のよさも、感じました。

大塚:擬音を入れない、三点リーダーやダッシュなどをほぼ入れないという縛りを作ったからかもしれません。

谷津:すいません、全部入れまくってます(笑)。

大塚:谷津さんの作品を読んで、本来日本語には美しい擬音が多いので、それを上手に使えるのは羨ましいと感じました。私は海外翻訳ものが好きなので、その影響もうけて擬音を排する方向に行きました。理系&工学部出身だからかはわかりませんが、曖昧な表現が上手く使えないんです(笑)。

谷津:どこまで行っても競合し合わなさそうなのが嬉しい。

――その他に工夫された点や悩まれた点を教えてください。

谷津:主人公と許婚の関係性です。戦国時代の恋愛は身分が高くなるほど自由ではなくなるでしょうが、現代人の読むものとして工夫する必要は感じています。今回、許婚だけど自由恋愛のように見せる工夫をし、さらにその女の子をツンデレにしてみました。「歴史小説に萌えを持ち込んだらどうなるか?」という大塚さんのツイートにヒントを得たんです。

大塚:そんな遣り取りもしてましたね(笑)。私は黒色火薬が使われていたために鉄砲の煙が黒かったことは、ぜひ書きたいことでした。いまは火薬が違うため、映画やテレビも鉄砲の煙が白いので。あとはセリフの口調は悩みましたが、歴史小説で使用されている「~でござる」というような擬古文体は極力使わずに、不自然でない限りは現代語を使いました。

――今回の作品は、どのくらいの期間で書き上げられましたか?

谷津:一ヶ月半くらい。書き始めると早いんです。

大塚:私は六ヶ月くらい。構成が決まるまでに時間がかかります。

――谷津さんは現役サラリーマン。大塚さんはゲーム会社で格闘ゲームの開発のお仕事をされていたそうですが、その経験は小説を書く上でどう生きていますか?

谷津:小説を書いているだけだと見えないものを見られると思っています。編集さんは基本的には著者に優しいので、社会の下っ端の27歳という世間一般の立ち位置を確認してます。なにせ若さが売りなので。上の世代とも話せて、それを作品にフィードバックもできる。あと、悪役・敵役には事欠きません(笑)。

大塚:私は仮想敵をゲームにし、それに負けないテキストをという意識が働きました。ボタンの操作性が命のゲームを作っていたので、その感覚に負けない、読んだそばから絵が浮かんで体感できるものにしたい。60分の1フレーム(1秒を60分割したもの)というゲームのフレーム感覚が染み込んでいるので、そのテンポを表現できるものをめざしました。

――初めて店頭で自分の本を見たときはどう思われましたか?

大塚:先にデビューされた谷津さんの作品を見て、ああ本当に本になるんだと(笑)。仲間がデビューしたという感慨がありました。自分の本に関して言えば、湊かなえ先生の新刊の隣に並んでいるのを見て衝撃を受けたのと、百人単位で一つの作品をつくるゲームとは責任の配分が違ってくるぞと思いました。

谷津:僕はいま営業職なので、書店員さんと学研の営業さんとの間にどんな攻防戦があったのかが、先に気になってしまいました。一生他人の作ったものを売っていくであろう人生を考えていたので、自分の作品が商品として並んでいる状況はある種、他人事に見えるというか……。あと、ある書店さんで自分の書いたものと安部龍太郎先生の『等伯』が並べて置かれているのを見たときは、焦りました。

――編集部も『等伯』の直木賞受賞を知って、正直焦りました。最後に、好きな歴史小説や作家の方と、今後お書きになりたいものを教えてください。

谷津:小学生の頃に『鬼平犯科帳』にはまって以来愛読してます。追いかけているのは木内昇先生です。作品の雰囲気が好きです。日本の小説なのにアメリカ文学の匂いすら感じられて、歴史を書かれているのにあの透明感は凄いと思います。

大塚:小さい頃から渋い趣味だったのですね(笑)。私はなんと言っても北方謙三先生です。研ぎ澄まされて無駄のない文体の凄さは、自分で書くようになって、さらに凄いことが良くわかりました。

谷津:いま書きたいのは山縣有朋です。幕末・明治時代が一番好きなんです。彼は明治・大正・昭和といまいち評価が低い人物ですが、それは前線の軍人としての部分であって、軍政の評価が正しくなされてないと思っています。

大塚:私はあえて勝者を書きたいです。歴史は勝者のものだと云われますが、勝者ゆえに語られないことがあるはずなので。関ヶ原の本戦の裏で戦って勝ったにもかかわらず、陽の目をみない人たちにも惹かれます。勝者の努力も正当に評価してあげたいと(笑)。敗者の方がドラマチックではありますが……。

谷津:誰が見ても勝ち組と思われる人物の、実は負けている部分には惹かれるものがありますね。ダメ人間や時代の陰に隠れがちな人々も書きたいです。そういう人たちのドラマを、史料の狭間から見つけ出していきたいです。

≪関連情報≫
「京都 洛中洛外図と障壁画の美」東京国立博物館 平成館 12月1日(日)まで開催中
http://www.ntv.co.jp/kyoto2013/

刈谷城(愛知県刈谷市)築城480年ホームページ
https://www.city.kariya.lg.jp/history/index.html

福山城博物館・福寿会館
http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/fukuyamajyo/

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