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谷原章介(俳優)×道尾秀介(作家)対談  「Jam Session」

2004 年『背の眼』でデビュー以来、『シャドウ』『龍神の雨』そして、直木賞受賞作『月と蟹』など、数多くの話題作を書き続けている道尾秀介さん。その道尾さんが毎回、自らの作品をテーマにゲストと語り合うこの対談。第1回目のゲストは俳優の谷原章介さん。読書家としても知られる谷原さんと語って頂く作品は2012年の作品『ノエル』。物語とは何か、演じるとはどういうことか、そして、意外な共通の趣味まで─話題豊富の対談を全3回でお送りします。

小説の中でしか絶対に見られない綺麗な何かを作りたかったんです(道尾)

更新日:2013/7/31

谷原:直木賞を受賞された『月と蟹』と『ノエル』を読み比べて、救済ということについて考えました。『月と蟹』では安易な救済は訪れないんですけど、救いがありそうな光明は射すんですよね。でも現実はそう甘くなくて、そんなに簡単に奇蹟は起こらないし、現実の世界では誰かが簡単に手を差し伸べてくれたり、それまでの鬱屈がリセットされたりする瞬間ってなかなか訪れない。そこが心に響きました。
『ノエル』はそれと対照的に救済がある物語じゃないですか。比較として適切かちょっとわからないですけど、『ペイ・フォワード』(※)という映画があります。あれは誰かが誰かのために何かをしてあげることによって世界が少しでも良くなる、という発明をある少年がしたというお話なんです。
『ノエル』の場合も、誰かが誰かのためを思ってちょっとした心配りをすることによって世界がだんだん明るくなり、その明るい輪が出来上がったものがエピローグにまとまっている、という印象を受けました。
 なんで同じ作家さんが、こんな対照的な作品を書けるんだろうって読んで不思議に思ったんですよね。

道尾:同じ事を二度やらないと決めているので、たとえばラストシーンで世界に光をあててあげるとしても、その方向や光量はいつも違ったものにしています。
 じつは『ノエル』に関しては、「物語という役者」が主人公のようなところがあって、小説家が「物語」をテーマにするということで、大きなプレッシャーがありました。道尾秀介は自分の作っているものをどうとらえているか、というところまで読まれる可能性がありましたから。ですから、他のどの世界にもない、小説の中でしか絶対に見られない綺麗な何かをつくりたかったんです。

谷原:作中作の童話の中に、羽を失った王女さまが空を飛ぶ、という話がありますね。あれがすごく素敵だなと思いました。魔法でぱっと飛べるようになるとかではなくて、物事を見る視点を変えることによって元気になることができる。それは、さっき言ったできすぎたリアリティみたいなものの真逆にあるようなきがするんですよね。とてもリアリティがある素敵な話で嬉しかったです。

道尾:その童話を書いているときって、僕という現実の人間が書いてるんじゃなくて、王女さまが物語を作ってるんですよね。その構図の逆転が、「真逆」ということにつながるのかもしれません。

谷原:なるほど。

道尾:現実をいつも物語で包んでしまうと、実人生がつまらなくなっちゃうと思うんです。最近は、とくに若い人の中に終始自分を物語で包んでしまっている人が多い気がします。何かやりたいことがあって本当は努力したいのに、自信がないから「自分は何もできない人間だ」というストーリーに入ってしまって、そこから出てこない。いつもではなくて、ここ一番のときに物語を身にまとって強くなるというのが、いい生き方だと僕は思います。
(次号に続く)

司会・構成/杉江松恋  撮影/干川 修

※ペイ・フォーワード:『ペイ・フォーワード 可能の王国』。2000年にアメリカで製作された映画。監督:ミミ・レダー、出演:ハーレイ・ジョエル・オスメント、ケヴィン・スペイシー、ヘレン・ハント。「もし君たちが世界を変えたいと思ったら、何をする?」社会科の授業で出された問題に、11歳のトレバーはあるアイデアを思いつく。それは"ペイ・フォワード"。他人から受けた善意をその人にではなく、別の人へと贈ることだった……。

作品紹介

谷原章介(俳優)×道尾秀介(作家)のプロフィール


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