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ホームウェブ連載コラム谷原章介(俳優)×道尾秀介(作家)対談 「Jam Session」第2回 > 人の感動のスイッチをいかに押さないかが作家の勝負所だと思うんですよね(道尾)

谷原章介(俳優)×道尾秀介(作家)対談  「Jam Session」

2004 年『背の眼』でデビュー以来、『シャドウ』『龍神の雨』そして、直木賞受賞作『月と蟹』など、数多くの話題作を書き続けている道尾秀介さん。その道尾さんが毎回、自らの作品をテーマにゲストと語り合うこの対談。第1回目のゲストは俳優の谷原章介さん。読書家としても知られる谷原さんと語って頂く作品は2012年の作品『ノエル』。物語とは何か、演じるとはどういうことか、そして、意外な共通の趣味まで─話題豊富の対談を全3回でお送りします。

人の感動のスイッチをいかに押さないかが作家の勝負所だと思うんですよね(道尾)

更新日:2013/8/7

——道尾さんは、登場人物ひとりひとりの心情に寄り添って書くということを旨としておられます。自分で責任をもって心情を引き受けられなければ、どんな登場人物でも書けないと。そこは役者さんが演技をされる場合とよく似ているように思います。たとえば、谷原さんが自分が演じたいと思っている世界と脚本との間にすきまがあった場合、それはどのように埋められるのでしょうか?

谷原:できないと言うと発展しないので、どうやったらこの台詞を言えるのかな、と考えます。心の置き場所や重心を少し変えることで、その台詞が言えるようになるんですよ。自分の方に引きつけて「こうじゃないと駄目」と考えるのではなくて、「この役だったらこう言わせたほうがいいな」という風に考えます。「僕の主観」ではなく「役の主観」ですね。

道尾:そのとき意識するのは、見ているお客さんではないわけですね。

谷原:それは後ですね。背負っている役の人物がシーンごとに積み重ねてきたものを裏切らないようにします。たとえばお客さんからすれば「40分目まではよかったけど41分目のこの台詞で台無し」みたいになってしまう可能性だってあるじゃないですか。僕自身の責任において、どうやったらこの役をまっとうできるのかっていうことですよね。
 脚本家やプロデューサーの方は僕らと違う視点で物語を作っているので、時として矛盾が生じるのはしょうがないんです。それを一個一個修正していったらただ辻褄があうだけでつまらなくなってしまう。だから視点を変えて、どうやったら自分の解釈で言えるようにするかとか、そう考えますね。
 僕は道尾さんのようになかなかずばっとお客さんのことなんか考えてないとは言いにくいので(笑)。それは迎合しないということじゃないですよね?

道尾:そうです。僕も作家なので、人の感動のスイッチがどこにあるかくらいわかるんですよ。でもそこをいかに押さないかが作家の勝負所だと思うんですよね。流したことのない涙を流してもらうというのが大切で、せっかくものを作っているんだから、それを味わう人の中に新しい現象が起きなければ意味がないと思うんですよ。

谷原:道尾さんの作品はスタイルが毎回ちがいますよね。小説のスタイルって、今度はこれを狙ってみようという感じで決められているんでしょうか。

道尾:やりたいことはいつもたくさんあるんですけど、その中には水と油みたいに合わないものがあるんです。一つの作品を書いているときに、一方でその「合わないもの」が蓄積していって、後からそこを見てみると、不思議に統一感がとれている。それが次の作品になることが多いですね。

谷原:そういうのってどう湧いてくるんですか?

道尾:いえ、やっぱり文章にしてからです。何も浮かばないときに、まず1ページだけ書いてみたりもします。ただ男が歩いてる情景を描写しただけでも、どこから来たのか、どうして歩いてるのかという疑問が浮かんできて、さっきも言った「書かれていないことの多さ」が如実にわかってくるんですね。「男が歩いていた」と書いてあるその背景には、無数に書かれていないことがあって、それが物語の可能性なんです。だから、どんな情景でも、書くと急に楽しくなってきます。僕の場合、「何も浮かばない」って悩んでるだけじゃ絶対に物語は生まれないんですよ。

谷原:最初の一文が種みたいなもので、そこからどんどん枝葉が繁ってという感じなんですね。普段ネタ帳みたいなものをつけていたり、ということではないんですね。

道尾:これは今度使えるかなっていうのが浮かぶと一応メモしますけど、まず使えないですね(笑)。

作品紹介

谷原章介(俳優)×道尾秀介(作家)のプロフィール


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