未知の人々との出会いが
「やり抜く脳」を育てていく!
「茂木さんはいったい、どんな英才教育を受けたのですか?」
そんな質問も、たびたび受けることがあります。けれども私は「勉強しなさい」などと、親から一度もいわれたことはありませんでした。
思い返せば、私の母親が私に対して唯一、成長のチャンスをくれたことがあります。
それは私が小学校に上がる時に、蝶の研究をしている大学生を紹介してくれたこと。つまり「蝶オタク」の大学生に、私を弟子入りさせたのです。
当時、私は蝶の研究などとは無縁の、ただ昆虫が好きな、普通の子どもでした。しかし、人間の脳というのは不思議なもので、たとえそれが自分の外から訪れたきっかけ(この場合でいえば親)であっても、いざその魅力や意味さえ認められれば、強い欲求が生まれるものなのです。
そして気がつくと、私は蝶に夢中になっていました。しまいには、日本鱗翅(りんし)学会という本格的に蝶の研究をしている学会に入って、そこで大人たちの会話を聞くようになったのです。
正直なところ、交わされている会話の内容のすべてが理解できたわけではありません。ただ、聞いているだけでとても大きな刺激になったことを、いまでも鮮明に覚えています。
何しろ学会に参加されている方々の誰もが、それなりに蝶のことを知っているだけの私など到底足元にも及ばないくらい、豊富な知識を持ち合わせていたのです。
私はその方々の発表を聞きながら、「あー、世の中というのは上には上がいるんだな」ということを学びました。
そして、「もっと詳しくなりたい! もっと上のレベルに近づきたい!」という、とてもシンプルで強い成長の欲求が自分の脳内に生まれたのです。
私の母親が、大学で蝶の研究をしている学生に弟子入りさせたというのは、「世の中のレベルは青天井である」ということを知るうえで、とても大きなきっかけになりました。
では、いったい私の母親は、蝶の研究をしている学生に弟子入りさせて、何を学ばせたかったのでしょうか? 正直なところ、それはいまでも謎なのです。
もしかすると、たまたま知り合いで蝶の研究をやっている大学生がいただけなのかもしれません。もっといってしまえば、少年だった私がそれほどまでに蝶の研究にのめり込むなど、親としては想定外のことだったかもしれません。
でも、そうした「未知の人々との出会い」が、私の「やり抜く脳」につながっていることは確信できます。
――次回に続く。
(※この連載は、毎週木曜日・全8回掲載予定です。5回目の次回は6月8日掲載予定です。)
更新日:2017/6/1