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【4】“ゲーム理論”で「いい人」の
「利得の期待値」を考えてみる

「あの人は真面目でいい人だ」

「あの部下は素直で、こちらの頼みごとを何でも聞いてくれる」

このような評判、ちょっと聞く分には良いイメージですよね。お付き合いするならそんな人が理想だと思う人も多いはずです。

真面目、素直、そして「いい人」。一見すれば何も悪いところは見当たらないように思います。

ですが、このような「いい人」を脳科学的な見地で分析すると、こういう人は人生を損する人、出世できない人であることが多いものです。

 

人生も、仕事も、「ゲーム理論」で考えてみることで新しい発見があります。

ゲーム理論とは、複数の人間が関わるときの意志決定の問題で、相互関係を理論的に考えるというもの。もう少しわかりやすく説明すると、「複数の利害関係者がいる状況で、どんな行動を取るのが最適か」を考えるものです。

つまり、自分以外の相手(プレイヤー)がいるときに、自分がどういった行動(戦略)を選べば自分にとって利益が高いかを考えるということです。

ではここで、ゲーム理論の代表的なモデルである「囚人のジレンマ」をご紹介しましょう。

あるふたりの男が犯罪の容疑者として逮捕されました。

ふたりは別々の取調室に通され、事情聴取されることになりました。

しかし、いつまで経ってもふたりは黙秘を続けているばかりで、しびれを切らした刑事がふたりに次のような提案をします。

 

「このまま黙っているのもいいが、自白したほうが身のためだぞ。黙ったまま刑が決まれば懲役3年になるが、自白してもうひとりの犯行も証言してくれれば減刑して懲役1年で済ませてやる。

ただし、もしあっちが自白してお前が黙ったままなら、お前の刑は重くなって懲役15年になる。まあ、ふたりとも自白した場合は両方とも懲役10年だけどな」

ここで一度整理してみましょう。

 

 ・相手が自白せず、自分が自白した場合は懲役1年

 ・相手と自分が自白しなかった場合は懲役3年

 ・自分と相手が両方自白した場合は懲役10年

 ・相手が自白して、自分が自白しなかった場合は懲役15年

 

相手を裏切れば軽い刑で済み、相手も裏切ると共倒れで、もし相手に裏切られれば、最も重い刑を執行されてしまいます。

これを今回の「いい人」という観点で考えてみると、もし相互の利益を慮って自白をしない「いい人」でいた場合、自分の利益だけを重視して自白する「ずるい人」に出し抜かれてしまうかもしれません

これはそんな心理を突いた、巧みな取引だということです。

このように、お互いに意思疎通できない状況で、相手に協力するか、裏切るかの選択を迫られているというような相互依存関係をシミュレーションするひとつの分かりやすいモデルとして、この「囚人のジレンマ」があるのです。

 

では、人は「囚人のジレンマ」と似たような状況に陥ったとき、どのような行動を取る傾向にあるのでしょうか。

相手に協力するのか。あるいは相手を裏切るのか。自己と他者の関係を考えるうえで、このようなジレンマに直面することは避けられません。

このゲーム理論を踏まえ、冒頭のような「いい人」であるという戦略は、将来的にその人にとってどれほどの利得をもたらすのか。

「いい人」でいるという戦略を冷静に考えたとき、私はどう考えてもそれほど「利得の期待値」が高くないという結論に至ってしまうのです。

たしかに他人から「いい人」という評判は得られますし、表面上は感謝され、ありがたがってもらえるでしょう。けれどもそうした「いい人」は、人の頼みを断れないので常に便利に使われるばかりでなく、すべての行動がマイナス方向に向かってしまいます。

【頼まれごとにNOと言えない→ひとりで仕事を抱え込んでしまう→溜め込みすぎてパンクしてしまう→評価が上がらない→労働の報酬も上がらない→豊かで幸せな人生を送れない】

こんなふうに人生の逆スパイラルに陥ってしまったなら、「いい人」の称号などにいったい何の意味があるでしょう?

 

(この連載は、毎週月曜・木曜更新、全6回配信予定です。次回は、12月20日配信予定です)

更新日:2018/12/17

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プロフィール

茂木健一郎 (もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。
東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。
理学博士。脳科学者。
理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。
専門は脳科学、認知科学であり、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。
2005年、『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。
2009年、『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。
主な著書として、『結果を出せる人になる!「 すぐやる脳」のつくり方』『もっと結果を出せる人になる! 「ポジティブ脳」のつかい方』『IQも才能もぶっとばせ!やり抜く脳の鍛え方』(学研プラス)、『人工知能に負けない脳』(日本実業出版社)、『金持ち脳と貧乏脳』(総合法令出版)などがある。

作品紹介

「いい人」をやめる脳の習慣


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